見合い結婚の末、夫の一巳を愛せないでいた専業主婦の晴美は、
子育てに希望を託し不妊治療へ通う日々を送っていた。
春のある日、
晴美は産婦人科の検査で不妊の原因が夫にあることを知る。
落胆した晴美は帰郷し、ある墓前へ花を手向ける。
十年以上も前に行方不明になった美術教師、
糸井への思いを、晴美は未だ断ち切れずにいた。
一方、
夫の一巳はいつまでも手に入らない妻の愛情を外に求め、
愛人との情欲に耽っていた。
その夜、友人と飲んで酔った晴美は、最終電車に乗りこんだ。
乗り合わせたのは、
女子高生の加奈子、自称旅人の栗栖、獣医学生の岡田。
電車が山に差し掛かった時、
運転手増井は人を撥ね、電車を森の中で止めてしまう。
線路に降りた増井の前に、
狐の面をつけた赤い着物の少女が倒れていた。
増井は事故が発覚するのを恐れ、少女を林の中へ運ぶ。
電車へ戻ろうとした増井を、複数の男達が取り囲んだ。
増井の絶叫が車内へ届き、乗客達は連れ去られた増井を追った。
謎の男達の行灯の光が森の奥深くへと誘う。
晴美が行き着いた先は「安楽庵」という狐の棲む宿だった……。
失踪した妻を探しやつれた一巳は、
狐の宿での晴美の姿を夢に見るようになる。
夢の中で晴美と情愛を深める男、
糸井との関係性が現世で浮き彫りになっていく。
だがその先に待っていたのは、
妻の残酷なまでの真実だった。